エンジンのかかりが悪い・かからない原因と対処方法

エンジンのかかりが悪い・かからない原因と対処方法

トラブル症状

キュキュキュとクランキングはするが、なかなかエンジンがかからない。一度のクランキングではエンジンが始動せず、何度かクランキングしないとエンジンがかからないなど。エンジン始動後もパワーが出ない、回転数が低いなどの症状が併発することもあります。
原因により様々ですが、現状のかかりにくい状態から悪化してエンジンの出力が低下したり、走行中にエンストを起こす、エンジンの始動が困難になるなど、症状が悪化する可能性があります。また、原因によってはエンジン警告灯や水温異常などの警告灯が点灯するケースもあります。また、冬にかかりにくい、夏にかかりにくい、朝一だけかからないなど季節やタイミングによってかかりにくくなることもあります。

中村 武央 監修者
整備士 / テクニカルディレクター
中村 武央

兵庫県 猪名川町在住 1972年生まれ

2005年ラリージャパンではチーフメカニックとして活躍。プジョー、シトロエン、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンなど、様々な欧州車メーカーの車両を数千台以上担当し、幅広い知識と技術を持つ。10代からクルマに興味を持ち、工業系大学卒業後、大手チューニングショップを経て1999年にYMワークスに入社。 …続きを読む

考えられる原因と故障診断

① 吸入空気温センサーの故障

原因
外気の温度を計測するセンサーが故障すると、外気温が正しく計測できず、冬季の低温状態で燃料の補正ができなくなり、エンジン始動性が落ちる可能性があります。

診断方法
診断ツールを接続し、空気温センサーの数値やエラーを確認します。

修理・改善方法
吸入空気温センサーを交換することで改善します。

② 水温センサーの故障

原因
エンジン冷却水の温度を計測するセンサーが故障すると、エンジンが冷間時なのか温間時なのか判断がつかず、燃料の補正ができなくなってエンジン始動性が落ちる可能性があります。

診断方法
メーターパネルに表示される水温計が動かなくなっていたり、低温を示す青い表示やオーバーヒートを示す赤い表示などが消えなくなる症状が目安になるケースもあります。しかし、確実な方法は診断ツールを接続して確認するのが一番です。

修理・改善方法
水温センサーの交換によって改善します。

③ エアフロメーターの故障

原因
吸入空気量を計測するセンサーが故障すると、吸入空気量が正しく計測できず燃料噴射量のコントロールができなくなります。エンジンの始動性が悪くなる他、加速が鈍くなる、エンジンに力がない、アイドリングが不安定になるなどの症状が併発します。

診断方法
診断ツールを接続して数値の変化やエラーを確認します。種類によっては、取り外した状態で息を吹きかけた際に抵抗値が変化するかで判別が可能なものもあります。

修理・改善方法
エアフロメーターの交換によって改善します。

④ 点火プラグの劣化や故障

原因
混合気が爆発するきっかけとなる火花を飛ばす点火プラグが故障すると、火花が弱くなり爆発力の低下につながったり、点火ミス(失火)を起こします。1気筒でも不具合があると、エンジンの振動が大きくなる、加速不良、エンジンの力不足が発生し、始動性も低下します。

診断方法
パワーバランステストで不具合を起こしている気筒を判別し、点火プラグをエンジンから外した状態で点火させて火花のチェックを行います。※引火しないように措置が必要です。

修理・改善方法
点火プラグの交換によって改善しますが、交換時は全ての気筒で交換することをお勧めいたします。

⑤ イグニッションコイルの故障

原因
点火プラグに火花を飛ばすための高電圧を発生させる部品です。このイグニッションコイルが故障すると、点火プラグに火花が飛ばせなくなり、点火プラグが故障した場合と同様のトラブルが発生します。

診断方法
イグニッションコイルが一つしか付いていないタイプでは、全ての気筒のプラグで火花が飛ばなくなるため、そのような症状から判別します。各気筒に付いているダイレクトイグニッションタイプでは、点火プラグをエンジンから取り外して火花の飛び具合をチェックし、火花が飛ばない気筒と正常な気筒でプラグやイグニッションコイルを入れ替えて不具合箇所の特定を行います。

修理・改善方法
イグニッションコイルを交換することで改善します。ダイレクトイグニッション交換時には、当該部品のIDコードを登録する必要があるケースもありますので、交換時には注意が必要です。

⑥ フューエルインジェクターの故障

原因
燃料を噴射するフューエルインジェクターが故障すると、燃料の噴射ができなくなります。点火プラグの故障と同様に、フューエルインジェクターが故障した気筒は爆発ができなくなりますので、エンジンの振動の増加、加速不良、エンジンの力不足とともに始動性も低下します。

診断方法
パワーバランステストを行って不具合のある気筒を見つけたら、点火プラグの確認をします。点火が正常に行われていれば、燃料系であるフューエルインジェクターの不良が疑われます。

修理・改善方法
フューエルインジェクターの交換によって改善します。

⑦ 燃料ポンプの故障(燃料フィルターの詰まりや異常)

原因
燃料ポンプはフューエルインジェクターに燃料を圧送するための部品です。この燃料ポンプが故障すると、フューエルインジェクターに燃料を送ることができなくなり、インジェクターが開いても燃料が噴射されません。インジェクターが故障した場合は、故障したインジェクターの気筒のみが不良となりますが、燃料ポンプが故障すると全てのシリンダーに燃料が送られないため、始動が困難となったり、エンジン不調、エンストなどの症状が発生します。また、燃料ポンプが正常でも、燃料フィルターが汚れや異物によって詰まると、燃料ポンプが燃料を吸い込めなくなってしまい、同じ症状が発生します。

診断方法
フューエルホースの張り具合を確認したり、フューエルパイプから燃料が噴き出すかなどで確認します。フィルターの詰まりは目視で確認する必要があります。

修理・改善方法
燃料ポンプの交換によって改善します。フューエルフィルターが個別に設定されている場合は、フューエルフィルターも同時に交換をおすすめします。

⑧ 圧縮圧の不足

原因
エンジンがしっかりと性能を発揮するためには、燃焼室内に吸い込んだ混合気をしっかりと圧縮することが必要です。圧縮することで熱効率が高まり、圧縮圧が高いほどピストンを押し下げる力が強くなります。しかし、ピストンリングやシリンダーが摩耗したエンジンや、メンテナンス不足でシリンダー壁に傷が付いたエンジンは、隙間から圧縮した圧力が逃げ出してしまいます。これにより、エンジン出力や始動性が低下します。

診断方法
コンプレッションゲージによって圧縮圧の測定を行います。

修理・改善方法
圧縮圧が低下している場合、エンジンの燃焼室壁面の摩耗やピストンリングの摩耗などが原因となります。エンジンのオーバーホールで修理が必要です。

⑨ スターターの故障

原因
エンジンがかかるきっかけを作り出す部品です。スターターモーターが回転することでエンジンを強制的に回転させ、エンジン始動のきっかけを作り出します。このスターターが故障するとエンジン始動が困難となります。完全に動かなくなる故障ではエンジンの始動ができなくなりますが、スターターの回転数が落ちる、トルクが落ちて回転力が落ちるなどの不具合の場合はエンジンの始動性が悪いという症状になります。

診断方法
クランキング時の音から判断したり、消去法でスターターにたどりつく場合もあります。

修理・改善方法
スターターの交換によって改善します。

⑩ バッテリーあがりや劣化

原因
エンジン始動時に作動するスターターモーターは非常に大量の電力を消費します。そのため、バッテリーが弱っているとスターターモーターの回転力が落ちたり、点火プラグの火花が弱くなるなどの症状が発生し、エンジンの始動性が悪くなる事があります。

診断方法
バッテリー電圧をテスターで測定するか、セルモーターの音の弱さで判断します。

修理・改善方法
バッテリーを交換することで改善します。

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