トラブル症状
エンジンをかけると普段と違う音がする。音が大きくなると室内にいて聞こえることもあるが、アイドリング時に外に出て気がついたり、窓を開けて走行中に異音に気がつくことが多い。音の種類は「キリキリ」や、「クー」、「ウォー」、「ガラガラ」など原因によって様々あり、人によっても聞こえ方が異なります。また、故障箇所や不具合の原因によっては、エンジンが温まると音が消えたり小さくなる事があります。これは、金属が熱によって膨張することや、ベルトなどのゴム部品が柔らかくなることで原因となる箇所に変化が起きている可能性があります。
エンジンをかけると異音がするという場合は、放置すると重症化するケースがあり、走行不能状態に陥ったり、エンジンの始動が困難になるケースも珍しくありません。異常を感じたらすぐにご相談ください。
考えられる原因と故障診断
① ウォーターポンプの不具合
音の種類:「ガラガラ」、「ウィーン」、「ウォーン」、「ジジジ」、「ブオーン」、「ゴー」
原因
ウォーターポンプの軸にガタが発生して回転時の抵抗になって音が発生したり、ベアリングのガタや摩耗によって異音が発生します。水漏れを伴うこともあります。
診断方法
ベルトを外して、手で回転させて確認します。引っ掛かるような感触が有ったり、ガタつきがないか、異音はしないかなどを確認します。また、継ぎ目や軸から冷却水が漏れた形跡がないかも併せて確認が必要です。
修理・改善方法
ウォーターポンプの交換によって改善します。タイミングベルトで駆動している場合には、タイミングベルトの同時交換も推奨されます。
② コンプレッサーの故障
音の種類:「ガラガラ」、「ゴー」、「ウォーン」、「ギャー」
原因
コンプレッサーとプーリーの動力の接続をON・OFFするマグネットクラッチベアリングの異音や、コンプレッサー本体内部の故障によって異音が発生するケースが多くなります。コンプレッサーの不具合では、エアコンが効かなくなるという前兆がある場合もあります。コンプレッサーの焼き付き等が起こるとプーリーが動かなくなるため、駆動ベルトが滑って「ギャー」という音が発生します。
診断方法
ベルトを外してガタなどを確認しますが、これはマグネットクラッチがOFFの状態のみです。マグネットクラッチがONとなった状態での確認は、実際にエンジンをかけてエアコンをONにした状態で異音の確認を行います。
修理・改善方法
マグネットクラッチやコンプレッサーの交換によって改善します。
③ ファンベルトベアリングの劣化
音の種類:「ガラガラ」、「ウィーン」、「ウォーン」、「ジジジ」、「ブオーン」、「ゴー」
原因
スプリングなどの力を利用してファンベルトに適度な張りを与える役割がありますが、内部のベアリングの摩耗や劣化によって異音が発生します。ファンベルトベアリングは、ベルトテンショナーや、アイドラプーリーなどの呼称もあります。
診断方法
ベルトを外した状態で手で回して確認します。ガタつきや引っ掛かり、異音の有無で判断が可能です。
修理・改善方法
ファンベルトベアリングの交換によって改善します。
④ ファン(ベルト駆動式)の不具合
音の種類:「ガラガラ」、「ウィーン」、「ウォーン」、「ジジジ」、「ブオーン」、「ゴー」
原因
エンジンの動力によってファンを回す方式の車で、ファン取り付けシャフト部のベアリングが摩耗や劣化すると異音が発生します。
診断方法
ベルトを外した状態で手で回して確認します。ガタつきや引っ掛かり、異音の有無で判断が可能です。
修理・改善方法
ファンシャフト交換(軸部分)によって改善します。
⑤ ファンベルト類の緩み
音の種類:「キュルキュル」、「キュー」、「ギャー」
原因
ファンベルト(Vベルトやドライブベルト)はクランクプーリーの回転をロスなく伝えるため、適度な張りを持つよう調整されています。調整方法は手動タイプとテンショナーによる自動のタイプがありますが、ファンベルトの緩みが出やすいのは手動調整のタイプです。ファンベルトはゴム製の部品のため、新品の状態から使用していくにつれてだんだんと伸びて行きます。自動調整タイプ(オートテンショナー)で調整する方式は、伸びた分テンショナーが自動で調整しますが、手動タイプの方式を採用している車は定期的に張り具合の点検と調整が必要になります。
診断方法
ベルトの張りをたわみゲージや触診によって確認します。
修理・改善方法
ベルト調整が必要なタイプはベルトの張りを調整し、オートテンショナーのタイプの場合はテンショナーの交換が必要となります。ベルトが著しく伸びている場合にはベルトの交換も必要です。
⑥ オルタネーターの異常
音の種類:「ヒューン」、「ガラガラ」、「ジジジ」、「ウォーン」、「ウィーン」、「ゴー」
原因
オルタネーターもクランクプーリーを介して駆動されており、プーリー内部や軸にベアリングが使用されています。ベアリングの摩耗や劣化、ガタが発生すると異音発生の原因となります。
診断方法
ベルトを外した状態で手で回して確認します。ガタつきや引っ掛かり、異音の有無で判断が可能です。
修理・改善方法
オルタネーターの交換によって改善します。
⑦ エンジンスターターの不具合
音の種類:「ゴー」、「ガー」、「ウォーン」、「ブオーン」
原因
エンジンのスターターは、エンジン始動操作(クランキング時)にのみエンジンと機械的に接続されてエンジンを回し、エンジンが始動(クランキング操作終了)したタイミングで接続を切り離す構造になっています。この切り離しがうまくいかないと、エンジン始動後も強制的にスターターがエンジンによって回されることとなり、異常な回転で異音が発生したり、異常な回転によってスターターは破損して異音が発生します。
診断方法
スターターを取り外して目視や単体テストによって確認します。
修理・改善方法
スターターの交換によって改善します。
⑧ エンジンマウントの劣化
音の種類:「コトコト」、「ゴトゴト」
原因
エンジンの揺れを吸収し、振動を伝えにくくするエンジンマウントのゴムが劣化すると、エンジンの揺れを吸収できずに車体に干渉して異音が発生します。
診断方法
エンジンマウントを目視で確認します。
修理・改善方法
エンジンマウントの交換によって改善します。
⑨ エンジンのオーバーヒート
音の種類:「キンキン」、「カンカン」、「カリカリ」
原因
エンジンが何らかの理由でオーバーヒートを起こすと、異常な高温となってプラグによる点火を待たずに勝手に爆発してしまう異常燃焼を起こします。この異常燃焼のタイミングとピストンの動きが一致しないために、エンジン内部で打撃音のような音が発生します。深刻なオーバーヒートは、エンジン本体にダメージを与えることがあり、ピストンがエンジン内部で溶けるような症状が発生することもあります。
診断方法
エンジンの冷却水が漏れていないか、リザーバータンクの量やラジエーターの量などの確認を行い、冷却水の不足が原因の場合には冷却系統の点検を行います。シリンダー内の異常燃焼が原因の場合にはプラグの色や状態、オイルに冷却水が混ざっていないかなどの確認も必要です。
修理・改善方法
オーバーヒートの原因に応じた適切な修理を行うことで改善します。必要に応じて冷却系統の部品交換やエンジン内部の修理が必要です。
⑩ エンジンオイルの劣化
音の種類:「カラカラ」、「ガラガラ」
原因
エンジンの潤滑材であるエンジンオイルは、定期的な交換が必要です。交換を怠ると汚れが徐々に深刻になり、粘度が増加してチョコレート状になってしまいます。エンジン内部の振動が大きくなり、異音が発生します。
診断方法
オイルレベルゲージやオイルフィラキャップを開けて確認します。エンジンヘッドカバーを開けることも有効です。
修理・改善方法
エンジンオイルとオイルフィルターの交換によって改善しますが、エンジンにダメージを及ぼしている場合はエンジンのオーバーホールが必要になる場合もあります。
⑪ 点火プラグの不良
音の種類:「カンカン」、「キンキン」
原因
点火プラグの熱価が低く、異常な高温となると、プレイグニッションを起こしてノッキングの原因となります。
診断方法
プラグの熱価や焼け具合を確認します。
修理・改善方法
プラグを正しい熱価のものに交換することで改善します。
⑫ エンジン内部の不具合
音の種類:「ガラガラ」、「ガリガリ」、「ゴー」、「ウォー」
原因
以下の不具合原因はエンジン内部の不具合となり、診断方法や修理方法が共通となります。
クランクメタル
ピストンの上下運動を回転運動に変換するクランクシャフトと、ピストンとクランクシャフトを繋ぐコンロッドがあり、コンロッドとクランクシャフトの摺動部にはクランクメタルと呼ばれる金属の部品が取り付けられています。エンジンオイルの劣化やオーバーヒートなどが原因でエンジンが焼きつき気味になると、クランクメタルに傷がついたり変形してしまい、異音が発生することがあります。
クランクシャフトベアリング
クランクシャフトの回転を支えているベアリングに摩耗や損傷、ガタが発生すると、異音が発生する原因となります。
カムシャフトベアリング
カムシャフトの回転を支えているベアリングに摩耗や損傷、ガタが発生すると、異音が発生する原因となります。
エンジンオイルが入っていない
エンジンオイル上がりやオイル下がり、オイル漏れによってエンジンオイルが減少してしまい、ほとんど入っていない状態となると、エンジン内部の潤滑ができずに各部で摺動不良を起こして異音が発生します。
ピストンやシリンダーの摩耗
燃焼室のクリアランスが増大し、ピストンがノッキングを起こすと異音が発生します。
診断方法
エンジン内部の異音はエンジンを降ろして分解しないと特定が困難なため、ベテランの整備士による聴診以外で推定することは非常に困難です。エンジンオイルの不足はレベルゲージやオイルフィラキャップを開けて目視することも可能ですが、エンジン本体にどれほどのダメージがあるかの判断は、やはり分解しないと確認が困難です。
修理・改善方法
エンジンのオーバーホールによって改善が見込まれます。エンジンオーバーホールの際には、他の摩耗している個所などの同時交換が必要となりますので、必然的に大がかりな修理となります。