ブレーキパッドの減り・摩耗が激しい原因と対処法

トラブル症状

ブレーキパッドの摩耗が早く、交換頻度が多くなってしまう症状です。前輪や後輪に偏る場合と、特定のタイヤだけに起こる場合があります。車を制御する最重要項目とも言えるブレーキの不具合は放置すると重大な事故に繋がる危険がありますので、不具合がある場合には至急修理が必要です。また、ブレーキパッドの減り具合は運転方法や使用用途によって大きく変わるため、一概に故障や不具合だけが原因とは言えません。そのため、ブレーキパッドの消耗が気になる場合はお気軽にご相談ください。

監修者

整備士 / テクニカルディレクター

中村武央

兵庫県猪名川町在住 1972年生まれ

2005年ラリージャパンではチーフメカニックとして活躍。プジョー、シトロエン、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンなど、様々な欧州車メーカーの車両を数千台以上担当し、幅広い知識と技術を持つ。10代からクルマに興味を持ち、工業系大学卒業後、大手チューニングショップを経て1999年にワイエムワークスに入社。 …続きを読む

考えられる原因と故障診断

① 急ブレーキが多い

原因

一般的なブレーキパッドは低温時の方が高温時に比べて摩耗しにくいように配合されています。長い下り坂などを除いて、市街地の走行時は急ブレーキを多用した方がブレーキパッドの温度は高くなって摩耗しやすくなります。ただし、長い下り坂では緩やかなブレーキをかけ続けた方が温度が上がってしまうため、ここでは市街地を走行した場合の原因としています。

診断方法

ブレーキングの強さや頻度は自分では気が付きにくいため、同乗者に聞いてみたり、ドライブレコーダーの映像を確認して客観的な視点で確認することをお勧めします。

修理・改善方法

急ブレーキが多くなるということは、走行スピードも高いことが予想されます。また、ブレーキは基本的に使用しなければ減ることはありませんので、安全運転を心がけ、ブレーキの頻度を減らすことで摩耗を抑えることができます。

② 高速走行時のブレーキが多い

原因

ブレーキは運動エネルギーを熱エネルギーに変換することでブレーキをかけています。そのため、低速での走行より高速での走行の方が運動エネルギーは高くなりますので、高速道路走行時のブレーキングの方がブレーキパッドやローターが熱を持ちやすく、一般的なブレーキパッドは摩耗が早くなります。

診断方法

使用方法についてお伺いし、高速走行の頻度やブレーキングの回数などを確認させていただきます。

修理・改善方法

高速道路の走行時にブレーキを多用してしまう原因には、車間距離の不足や前を走る車より早いスピードで走っていることが考えられます。車間距離を適切に保ち、ブレーキの回数を減らすことで改善が期待できます。また、一般道より高速道路の走行の方が多い場合には、低温時より高温時の方が摩耗しにくいスポーツタイプのブレーキパッドに交換して摩耗具合を比較することで、より摩耗しにくいブレーキパッドの選定に役立つ可能性があります。

③ ブレーキキャリパーの動き不良（ピストンの戻り不良）

原因

ブレーキパッドとローターの間には通常ほんのわずかな隙間ができるようになっています。グリス切れや固着によってブレーキキャリパーの摺動不良（動き不良）やピストンの戻り不良が起きると、ブレーキをかけた後にブレーキパッドが戻らず、ローターを挟んだままになる「引き摺り」という症状が発生します。ブレーキを緩くかけたままの状態となるため、ブレーキパッドやローターの温度が上昇してブレーキパッドの消耗が著しく上昇します。また、ブレーキフルードが沸騰して気泡が生じてブレーキが効かなくなる「ベーパロック現象」や、ブレーキパッドの温度が上昇して変質し、制動力が著しく低下する「フェード現象」を発生する原因となりますので、至急修理が必要です。

診断方法

車両をリフトアップし、タイヤを空転させて重くないかやブレーキがこすれる音がしないかを確認させていただきます。

修理・改善方法

ブレーキキャリパーオーバーホールによって改善いたします。摺動部の清掃や錆び落とし、給油をするとともにピストン部のシールやパッキン、ブーツの交換を行います。ただし、ローターが変形してしまっている場合にはローターの交換も必要になります。

④ ブレーキパッドが使用用途に合っていない

原因

ブレーキパッドにはいくつか種類があり、材質や配合、結合方法などによって耐熱性、耐摩耗性、制動力の大小、摩耗粉の出やすさ、ローターへの攻撃性や騒音の出やすさなどが変わります。市街地走行では比較的低温で使用されるケースが多く、またブレーキングの回数も多くなります。使用用途が市街地メインにもかかわらず、サーキット用の高温環境で性能を発揮するようなブレーキパッドを取りつけてしまうと、低い温度での耐摩耗性が低くあっという間に摩耗してしまうなどの症状が発生します。また、材質によって制動力は良いものの耐摩耗性が低いパッドなどもありますので、使用用途や性能とブレーキパッドが合致していない可能性があります。

診断方法

ブレーキパッドの特性と使用用途が合っているかどうか、一度ご相談ください。

修理・改善方法

ブレーキパッドの特性をよく理解し、使用用途や環境に合ったブレーキパッドを使用することで改善いたします。

⑤ ローターの異常

原因

ブレーキローターの偏摩耗や錆び、表面の傷などが原因でブレーキパッドが摩耗しやすくなってしまいます。

診断方法

ブレーキローターの傷や錆びを点検し、歪みや偏摩耗についてはダイヤルゲージを使用して測定させていただきます。

修理・改善方法

ブレーキローターの変形が原因の場合は交換し、表面の傷や錆びなど修正が可能なものは磨き作業や研磨によって改善いたします。

⑥ スリップしやすい路面での走行が多い

原因

自動ブレーキコントロールシステムが搭載されている車両に限りますが、横滑り防止機能やブレーキ補正機構などが働き、特に後輪が摩耗しやすくなるというケースがあります。通常、車両はブレーキング時に前輪が沈み込みフロント荷重になりがちです。そのためリアが浮き上がり、横滑りや車両の安定性が損なわれてしまいます。走行安定性を維持するように前輪・後輪のブレーキ力の配分を自動的にコントロールしてくれる便利な機能ですが、スリップしやすいような路面では姿勢を安定させるため後輪ブレーキの配分を多くする傾向があります。そのため、滑りやすい路面や雪道などの走行頻度が多いと、知らず知らずのうちに後輪ブレーキでの制御が多くなり後輪ブレーキが摩耗しやすいという症状が発生します。