プジョー専門店としての足跡|欧州プジョーチューナーの開拓と紹介 グートマン(gutmann)

プジョー専門店としての足跡|欧州プジョーチューナーの開拓と紹介 グートマン(gutmann)

最初にご紹介するブランドはドイツ ブライザッハに拠点を構えるグートマン。まだ、自社開発製品がなく、ムスケティア(MUSKETIER)が日本人の嗜好に合うアイテムをリリースするまで、プジョースポール(PEUGEOT SPORT)と共にYMワークスの黎明期を支える2大ブランドでした。英国(UK)の代理店の紹介もあって、最初の訪問でハナシが上手く進み、YMワークスは空席となっていた日本総輸入代理店の契約を取り付けることに成功しました。

のちに大企業の礎となる理論派チューナー

創業者であるクルト・グートマン(Kurt Gutmann)氏は1968年に最初の工場を設立。シムカ(CIMCA)のディーラーを営む傍ら、レース・チューニングに積極的に取り組みます。1979年のシムカの買収騒動の後はプジョーディーラー、オートハウス グートマン(Autohause Gutmann)となり、1984年にグートマン アウトモービルテクニック社(Gutmann Automobiltechnik GmbH)を設立、力を入れた205や405向けのチューニングやレースサポートが功を奏して、経営を安定化させました。

クルト・グートマン氏は研究熱心な方で、ダブルキャブレター、4バルブヘッド、触媒コンバーター、ターボエンジン等の研究・開発を手掛け、エミッション関係の事業を強化していきます。1990年には車両診断部門をグートマン メステクニック社(Gutmann Messtechnik GmbH)として分離独立させ、排ガス測定器・触媒等エミッションの分野で確固たる地位を築き上げます。

Peugeot 205 Gutmann Turbo 8S 1985(約30分)

プジョーチューナーとしての地位を確立した、プジョー 205GTI グートマン i 16V(PEUGEOT 205GTI gutmann i 16v)

グートマンを象徴するコンプリートマシンは「プジョー 205GTI グートマン i 16V(以下205GTI i 16v)」でしょう。軽量でレスポンスに優れた205GTIに405Mi16の150ps XU9J4 16Vヘッドのエンジンを加工して押し込んだワケですから楽しくないハズがありません。

巷では、単にエンジンスワップのようにも語られているようですが、搭載にあたっては

・独自のエアインテークマニフォールド、エアフィルター
・カム、ピストン、バルブスプリングの換装
・オイルクーラーの追加、冷却系の強化
・ECUのリマッピング、点火タイミングの最適化
・独自の排気系システム

等各部が改修されており、グートマンのチューニングノウハウが込められたエンジンとなっていました。この205GTI i 16vでグートマンは総合力を持つストリートチューナーとして認知されていきます。

特徴的なインテークマニフォールドは以下のサイトでご覧になれます。

https://www.facebook.com/profile/100064824845271/search?q=gutmann%20i%2016V

https://newsdanciennes.com/a-la-rencontre-dune-peugeot-205-gutmann-i16v-lionne-germanisee

なお、この205GTI i 16vはプジョー公式プレス車両にもなっており、各地のイベントで紹介され、プジョー本社もGutmann社の技術力と製品を高く評価していたことが伺えます。

なぜ、このクルマが高い評価を受けるのか?205GTIがレスポンスマシン足りえるのは、そのエンジン、ギア比、車体等のパッケージがあればこそ。ただ、唯一ともいえる苦手分野が「高速巡航」です。205GTIを120km/h以上で巡行させるにはエンジン回転数もそれなりで相当なストレスが伴います。アウトバーンでの高速巡航を日常とする、かの国でこれは由々しき事態であり、打開は切実な願いだったハズ。より高速巡航を得意とする405Mi16のエンジンに活路を見出したのはある意味、必然だったのかもしれません。

YMワークスでもこの「i 16v」をキットとして輸入、お客様の205GTIに装着しました。

グートマンの流儀

一言で言えば「ドイツ流に再解釈したプジョー」です。アウトバーンがあり一般路でもそれなりの加速と高速移動を求める彼らにとって、ドイツを走るならこうあるべき、というのを追及していたのだと思います。

排気効率と出力特性を併せ持つ理論派マフラー

グートマンのマフラーにはスチールのスタンダード版と206/306にはステンレス製の高性能版がありました。いずれにしても注目すべきはその出力特性です。パワーもトルクも全域でノーマルを上回り、高回転までキッチリ回る。

エンドの交換だけで?と思うかもしれませんが、ホントにそうなのです。納得がいくまで何本も試作・テストするとか。通常、ヌケの良いマフラーだと高回転域はパワフルですが、低速トルクが犠牲になりがち。ムスケティアもパワーは出てますがこちら寄り。

音量や環境への配慮も一貫していました。現在では当たり前のことですが、欧州でも騒音・排ガス規制が厳しくなる前から、他社よりもずっと先を見据えていたのです。ストリートでモアパワーを求めるにしても、スポーツ触媒(キャタライザー)をセットにしてくる念の入れよう。

似たような特性・特徴を持つブランドのマフラーはいくつかあります。概ねヒミツはタイコ部の構造による排ガスの流れにありますが、長いレース活動の経験、排ガス&触媒のエキスパートであるグートマンならではの技術が光る製品でした。

アウトバーン対応の足回り

速度無制限(区間がある)で知られるアウトバーンや苛酷なテストコースとしても知られるニュルブルクリンク。メルセデスやBMWもVWもこの環境が鍛えてきたのです。一般人でもそれなりの速度、加減速、高速安定性、ハンドリングを求めるドイツで、05、06世代プジョーの足回りが心許ない、というのは当然のことでしょう。

グートマンのダンピング特性を煮詰めたサスキット、ややワイドなホイールによる締まった骨太感のある乗り味は全て上記の環境から求められた結果です。当時、積極的に行っていたレースやそのサポート活動からも多くのフィードバックがあったと思います。

「プジョーの味をスポイルしているのでは?」という声もあるかもしれません。ある意味そうでしょう、でもそれがお国柄。文化の違いです。

ただ、こうも思います。307が登場した時、乗り味が「ゴルフっぽい」とか「ゴルフに擦り寄った」という声が日本でもありました。まあ、「プジョーらしくない」ってことですが、以降のプジョーはこの路線です。

YMワークス内でも「欧州フォード、オペルっぽい。ボディ固めたG36って感じ。今後はこうなるのでは?」との声がありました。ああ、なるほど。グートマンが目指したものを世界の潮流としてメーカーが具現化させたのだと。

コンプリートとしてグートマン G36(gutmann G36)を販売

YMワークスでもグートマンの205、309、405向けのパーツの輸入・販売は比較的順調でしたが、当時結成したブルーマジック(BLUE MAGIC)グループのブランド力強化のため、306マキシと共に2台のチューナーズブランドのコンプリートカーを製作・販売することにしました。その上位モデルが「グートマン G36」です。

プジョー306N3 XSiをベースにスタイリッシュで実用性のあるストリートマシンとして、グートマンのパーツと製作手法に則って仕立てています。構成は

・4灯フォグランプ付きフロントバンパー
・15/16インチホイール DTM
・サスペンションキット
・スチールサイレンサー

乗り味・ハンドリングは前述のように「ドイツ流の解釈による306」でしょうか。一本芯が入ったやや骨太の乗り味。ハンドリングも然り。レース経験が長く、ストリートカーを数多く手がけてきたグートマンは闇雲にインチアップすることを避けていたように思います。「ストリートチューニング、かくあるべし」といった信念のようなものがあったのでしょう。

ややライトな仕上げの下位モデルと合わせ数台をリリースしました。

コンプリート第二弾、グートマン G26(gutmann G26)

武骨ながら確かな性能の149psキット

2000年の夏頃だったか、UKの取引先から「グートマンが206用の面白いキットを出してきた、買わないか?」との連絡があり資料が送られてきました。「149psキット」というらしく高性能版ステン筐体のマフラーにエアフィルター、武骨なインテークがセットになっています。

丁度、輸入したばかりの206GTIが手元にあり、足回りや外装にも手を入れてコンプリートにしよう。そうして完成したのが「グートマン G26」です。構成は

・149psキット
・スポーツサスペンションキット
・STW Line 7.0×15インチホイール
・フェンダーアーチモール&リアスポイラー
・MAXFLOW HEAD加工(YMワークス特別加工)
・特別塗色(特注装備)

まずは要の「149psキット」。先に述べたグートマンのマフラーの特徴通りの仕上がり。吹け上りはやや軽くなり、ノーマルより明らかに全域でパワー・トルクの向上が感じられます。買うときにも「パワーはキッチリ出てるらしいから心配するな」的なことを言われましたが、確かに要らぬ心配のよう。ノーマルより低音が強調され、チューニングマフラーであることを主張するものの、街中・住宅地でも全く問題ない排気音も好印象です。

気になるのはバンパー下に存在する武骨なエアインテーク。のちに「他の場所じゃダメなのか?」と聞いたのですが「あそこであの形状でないとパワーが出ない」とか。

納得の足回りと特別塗色の外装パーツ

そして毎回感心させられるのが足回りのセッティングです。見た目はショボいのですが、高速でのフラット感とコシがあり、スポーツ走行も適度にこなすサスキット。25-30mm程のローダウンで見た目もまずまず。7.0J化に留めた純正サイズのホイールも効いていると思います。流石はアウトバーンの国のストリートチューニングです。

装着した外装パーツ、リアスポとフェンダーアーチは他のバンパー・モール類と共にパステル調の淡いグリーンで塗装しました。「ちょっとチャラいかな?」とは思ったのですが、206は女性ユーザーも多いのでプチモディファイとしての提案です。FBM(フレンチブルーミーティング)での反応はなかなか良かったですよ。ライトブルー、レモンイエロー、ピンク等があってもいい、というお声をたくさんいただきました。

なお、このデモカーはYMワークス自慢のMAXFLOW HEAD(ポート研磨・拡大)加工を追加で施しており、吹け上りはより軽く、滑らか。パワー感ももう一段、上手の仕様になっています。

グートマンの驚くべきその後

2000年初頭に同社を訪問した時、「今後はエミッション関係が事業の中核になる。既にクラシックカーやレストア車向けの相談が大量に来ている」AutomobiltechnikとMesstechnikの2つのロゴが記された名刺を受け取る際に聞いた言葉です。

プジョーの現行販売車向けのチューニング事業は1980年代後半から2005年あたりまでだったのでしょう。オーダーした最後のアイテムは407用ホイールでした。

グートマン アウトモビルテクニック社は消滅してしまったのか?

いえ、現在ではG-PARTSのブランド名で、冒頭の言葉通り、クラシックカー、オールドタイマー、レストア車向けに排気・エミッション関係のスペシャリストとしてパーツの製造開発・供給を行っています。これらの分野では欧州でも屈指のサプライヤーとして高い評価を得ています。

https://www.g-parts.eu/

欧州全域の町整備工場を支える、グートマン メステクニック社の技術

一方、2008年-2011年にかけてグートマン メステクニック社を核としたヘラ(Hella)グループとの合弁事業が進み、段階的な事業買収(完全子会社化)・経営の組織変更が行われたようです。今日、隣町イーリンゲンに本部拠点を擁する欧州屈指の総合排ガス・測定機器メーカー、ヘラ グートマン ソリューションズ社(Hella Gutmann Solutions GmbH)は、このグートマン メステクニック社が礎となっているのです。

同社は、車両診断機器やワークショップ向けのソリューションを提供しており、診断ソフトウェア「mega macs」に実装された自動診断機能が高く評価されました。特に町工場といった独立系整備工場からの信頼が厚く、同社の製品・サービスは欧州全域の整備工場で広く採用されています。

https://www.hella-gutmann.com/de

オートハウス グートマンは?

なお、プジョーディーラーも健在で、Hella系列の一企業となった現在も家族的経営を続けているそう。ルノー(Renault)・ダチア(dacia)の正規ディーラーやカワサキ(Kawasaki)製バイクの正規ディーラー、ガソリンスタンドの運営もやっています。

クルト・グートマン氏の現況は不明ですが、お会いした時の印象は「大声で部下に指示を飛ばす、頑固な職人気質のオヤジ」という感じでした。故 本田宗一郎氏にも似たようなハナシが伝わってきますが、きっと同じようなタイプの人なのかもしれませんね。

次回は?

さて、いかがだったでしょうか?

グートマンに対するイメージは契約時から変わりません。町工場の延長線上の規模ながらやっていることは当時の日本のトップチューナーレベルで総合的な技術レベルが非常に高いということです。現在までの発展や活動を考えると、やっぱりな、というのが率直な感想です。

グートマンとは結果的にお付き合いも創業から10年程で、このあたりのハナシは古い常連さんに少ししたことがあるぐらいです。今回、初めて公開する内容もいくつかあり、グートマンをご存じの方でもお楽しみいただけたのではないかと思います。最後にグートマンのカタログを一部ご紹介して終わりにしたいと思います。


次回はムスケティア(MUSKETIER)を考えているのですが、さすがに30年近いお付き合いで、デモカーもかなり作っていますので2部構成?で後回しになってしまいそうです。

他にもプジョースポール(PEUGEOT SPORT)、ルッファーパフォーマンス(Ruffer Performance)、UKのエコーゼ(Ecosse)、自社ブランドであるワイエムスポーツ(YM SPORT)等、ネタはたくさんありますのでお楽しみに。

小椋 正雄 私が書いてます
代表取締役
小椋 正雄(Masao Ogura)

京都府出身 河内長野市在住 1951年生まれ

日本のモータリゼーションの成長とともに育ち、欧州車に興味を持つ。メーカー勤務を経て1992年にYMワークスを創業、これまで約40年輸入車業界に携わる。メーカー勤務時には本社・工場の海外視察も経験し、現在も年に数回は英国、ドイツ、フランス等を訪問する。スーパーカーブームの少し前には単身渡欧を敢行。 …続きを読む

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