エンジン水温に異常がある原因と対処方法

トラブル症状

エンジン水温の異常は、赤い水温警告灯の点灯や水温計の横に高温を示す「High・H」が表示される状態を指します。ゲージ式の水温計の場合は、針が上限まで上がっているような状態が該当します。通常、エンジン水温は80度から90度程度が適温とされており、この範囲を超えた状態をオーバーヒートと呼びます。

エンジン水温の異常には主に二つの原因があります。一つは冷却系統の異常によって実際にエンジンが過熱している場合、もう一つは温度センサーの異常により、実際はオーバーヒートしていないにもかかわらず警告灯が点灯するケースです。

重要: オーバーヒート状態で走行を続けると、エンジン出力が著しく低下し、最終的にはエンジンブローと呼ばれる深刻な故障に至る可能性があります。異常な高温によりエンジン本体に歪みが生じたり、ピストンやコンロッドメタルの焼き付きなどが発生する恐れがあります。一方、水温計の故障により誤って警告が出ている場合は、実際の水温が不明なまま走行することになり、危険を伴います。いずれの場合も、早急な点検・修理が必要です。

監修者
整備士 / テクニカルディレクター
中村 武央

兵庫県 猪名川町在住 1972年生まれ

2005年ラリージャパンではチーフメカニックとして活躍。プジョー、シトロエン、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンなど、様々な欧州車メーカーの車両を数千台以上担当し、幅広い知識と技術を持つ。10代からクルマに興味を持ち、工業系大学卒業後、大手チューニングショップを経て1999年にYMワークスに入社。 …続きを読む
2005年ラリージャパンではチーフメカニックとして活躍。プジョー、シトロエン、BMW、アウディ、フォルクスワーゲンなど、様々な欧州車メーカーの車両を数千台以上担当し、幅広い知識と技術を持つ。10代からクルマに興味を持ち、工業系大学卒業後、大手チューニングショップを経て1999年にYMワークスに入社。確かな工学知識と柔軟な発想で、幅広い車種の整備・修理・カスタマイズを手がける。鋭い洞察力と豊富な経験を活かし、マニュアルに頼らない対応力でYMワークスの中核を担う。趣味はカート、スポーツ走行、車両製作。ラリー車両製作から輸入旧車のレストアまで幅広く対応。 閉じる

考えられる原因と故障診断

電動ファンの故障

原因

ラジエーターに強制的に風を送り、冷却を促す電動ファンが動作しなくなると、特に夏場の渋滞時など水温が上昇しやすい状況でオーバーヒートを引き起こす可能性が高まります。

診断方法

アイドリング時や渋滞時にオーバーヒート気味になり、走行すると水温が低下するという症状が見られることが多いです。診断ツールを接続し、電動ファンのON/OFF信号を確認します。ファンONの信号が出ているにもかかわらずファンが回転しない場合、ファン本体またはファンリレーの故障が疑われます。ファンモーターまで電気が来ていればファンモーター、来ていなければファンリレーの不具合の可能性が高くなります。

修理・改善方法

電動ファンまたはファンリレーを交換することで改善します。この作業には専門的な知識と工具が必要となるため、専門の知識を持つ備工場での修理をお勧めします。

冷却水へのエア混入

原因

蒸発による自然な減少、冷却水の漏れ、エア抜き不足、ラジエーターキャップの故障などにより冷却水路内にエアが混入すると、内部の圧力が保てなくなり、冷却水が沸騰してオーバーヒートの原因となります。

診断方法

まず、ラジエーターのリザーブタンク水量を確認します。次に、エンジンが完全に冷えた状態でラジエーターキャップを慎重に取り外し、内部の水量を目視で確認します。リザーブタンクが空になっていたり、ラジエーター内の水量が著しく低下している場合、エア混入の可能性が高いです。注意:絶対にエンジンが暖まった状態でラジエーターキャップを外さないでください。熱湯が吹き出して火傷する原因となります。

修理・改善方法

自然減少の場合は適切な冷却水を補充することで改善しますが、補充後すぐに水量が減少する場合は冷却水の漏れが疑われます。漏れの箇所を特定し、修理する必要があります。エア抜きが不十分な場合は、正しい手順でのエア抜き作業が必要です。これらの作業は専門的な知識と工具が必要となるため、専門知識を持つ整備工場での実施をお勧めします。

ラジエーターの詰まり

原因

冷却水はエンジンの熱を吸収し、ラジエーターで放熱することで大気中に熱を逃がします。ラジエーターの内部通路は非常に狭く、錆びや水垢の発生によって詰まりやすくなっているため、詰まりが発生すると冷却水の循環が阻害されてオーバーヒートの原因となります。

診断方法

エンジンを十分に暖機した後、アッパーホースとロアホースの両方の温度が近づいたことを確認してからラジエーターの温度分布を確認します。ラジエーター表面の温度にムラがある場合、内部の詰まりが疑われます。

修理・改善方法

ラジエーター内の洗浄で改善する場合もありますが、汚れの程度や状態によってはラジエーターASSY(アッシー)での交換が必要になることがあります。洗浄作業は専門的な知識と設備が必要なため、専門知識を持つ整備工場での実施をお勧めします。

サーモスタットの故障

原因

サーモスタットは冷却水の温度に応じて、ラジエーターをバイパスして暖気を早めたり、ラジエーターへの水路を開いて循環させて冷却したりする役割を果たします。この部品が故障すると、水温が上昇してもラジエーターへの水路を開くことができず、オーバーヒートの原因となります。

診断方法

エンジンを暖機し、アッパーホースとロアホースの温度差を確認します。エンジンが十分に温まった状態でも、アッパーホースとロアホースに大きな温度差がある場合は、サーモスタットの故障が疑われます。

修理・改善方法

サーモスタットの交換が必要です。この作業には専門的な知識と工具が必要となるため、専門知識を持つ整備工場での修理をお勧めします。

ウォーターポンプの故障

原因

ウォーターポンプはエンジンの力を利用して冷却水を循環させる重要な部品です。このポンプが故障すると、冷却水を適切に循環させることができず、オーバーヒートの原因となります。

診断方法

ウォーターポンプを駆動しているベルトを取り外し、プーリーを手で回して確認します。回転時に引っ掛かりや異音、異常な重さを感じる場合は、ウォーターポンプの故障が疑われます。

修理・改善方法

ウォーターポンプの交換が必要です。タイミングベルトで駆動されているタイプの場合、タイミングベルトの同時交換をお勧めします。これらの作業は専門的な知識と工具が必要となるため、専門の知識を持つ整備工場での修理をお勧めします。

ラジエーターキャップの故障

原因

冷却水路内部はラジエーターキャップによって適切な圧力が保たれ、100度を超えても沸騰しないよう設計されています。キャップが故障すると、内部圧力が低下して冷却水が沸騰し、無数の気泡が発生して壁面に付着することで冷却効率が低下し、オーバーヒートの原因となります。

診断方法

ラジエーターキャップテスターを使用して、保持圧の機能を確認します。保持圧の基準値については、キャップに記載があるか、車両の修理解説書に記載されている場合があります。

修理・改善方法

ラジエーターキャップの交換で改善します。交換の際は、必ず車種に適合した正規品を使用してください。

水温センサーの故障、配線の短絡

原因

水温センサーは温度によって抵抗値が変化する素子で構成されており、通常は温度が高いほど抵抗値が低くなる特性があります。配線のショートやセンサー内部の特性ズレなどの故障により、抵抗値が著しく低い状態になると、システムは高温状態と誤認識し、オーバーヒートの警告を出してしまいます。

診断方法

診断ツールを接続して、現在の水温表示と実際の水温を比較・確認します。明らかに異常な高温や低温が表示されている場合、センサー本体か配線のいずれかに不具合が発生している可能性が高いです。センサーを取り外して単体テストを行うことで、配線の問題なのか、センサーの問題なのかを特定することができます。

修理・改善方法

水温センサーの交換、または配線の修理を行うことで改善します。これらの作業は専門的な知識と工具が必要となるため、専門知識を持つ整備工場での修理をお勧めします。