車のセルモーター(スターターモーター)が回らない・動かない原因と対処方法

トラブル症状

エンジンを始動しようとキースイッチを回したり、スタートボタンを押しても反応がなく、スターターモーターが回転しない状態を指します。この症状が発生すると、エンジンを始動できないため、車両を走行させることができなくなります。

スターターモーターが動かない問題は、車両の使用に直接影響を与える重大なトラブルです。下記の診断方法を参考に自己診断を試みることはできますが、誤った判断や不適切な対処は、さらなる損傷や安全上の問題を引き起こす可能性があります。特に電気系統や安全装置に関わる問題は、専門知識と適切な工具が必要となりますので、症状が改善しない場合や、原因が特定できない場合は、速やかに信頼できる専門の知識を持つ整備工場やディーラーでの点検をお勧めします。

考えられる原因と故障診断

1. バッテリー上がり

原因

スターターモーターを回転させるには大量の電力が必要です。バッテリーが弱っていたり、完全に放電してしまっている場合、スターターモーターに十分な電力を供給できず、結果として回転しなくなります。

診断方法

簡易的な判断方法として、ヘッドライトやルームランプの点灯状態を確認します。これらの電装品が暗い、あるいは全く点灯しない場合、バッテリー上がりの可能性が高いです。より正確な診断には、電圧計を使用してバッテリーの電圧を測定します。正常なバッテリーの場合、エンジン停止時で12V以上、クランキング時(スターターモーターを回している時)でも10V以上を示すはずです。また、クランキング時に「カチカチカチ」や「ジジジジ」のような音がする場合もバッテリーあがりの可能性が高くなります。

修理・改善方法

バッテリー上がりと診断された場合、バッテリーの交換が最も確実な解決方法です。一時的な対処として他の車両から電力をもらうジャンプスタートを行うこともできますが、接続を間違えるとヒューズが切断してエンジンの始動ができなくなるため、注意が必要です。また、バッテリー交換後は、充電系統(オルタネーター)の点検も行い、バッテリー上がりの再発を防ぐことが重要です。

2. スターターモーターの故障

原因

スターターモーター本体に不具合が発生すると、モーターが回転しなくなります。故障の種類によっては、時々動かない、あるいは時々動くなど、症状が安定しないケースもあります。主な故障原因としては、ブラシの摩耗、コンミテーターの損傷、内部の電機子や界磁コイルの断線などが挙げられます。

診断方法

バッテリーやキースイッチ、リレーなどに異常がないにもかかわらず、スターターモーターが動かない場合は、スターターモーター自体の故障が疑われます。専門的な診断方法としては、スターターモーターを取り外し、直接電気を流して動作確認を行います。

民間療法として知られる方法に、スターターモーターが動かない際に木の棒やプラスチックハンマーなどでスターターモーター部分を軽く叩くと、一時的に動く場合があります。これは、内部の摺動不良や固着を一時的に解消するためですが、根本的な解決にはなりません。

修理・改善方法

スターターモーターの故障が確認された場合、基本的にはスターターモーターの交換が必要です。ただし、専門の知識を持つ整備工場では、スターターモーターを分解して内部の部品(ブラシやコンミテーターなど)を交換することで修理できる場合もあります。コスト面や車両の使用状況を考慮して、交換か修理かを判断することをお勧めします。

3. シフト位置不良

原因

オートマチックトランスミッション(AT)車では、安全のためシフトレバーがパーキング「P」位置またはニュートラル「N」位置にないとエンジンを始動できないようになっています。意図せずシフトレバーの位置が変わってしまっている場合は、安全装置が働いている可能性があります。

診断方法

シフトレバーの位置を目視で確認します。多くの車両では、メーターパネルにも現在のシフトポジションが表示されるため、これも確認します。

修理・改善方法

シフトレバーをPまたはNレンジに確実に入れることで、エンジン始動が可能になります。ただし、シフトレバーが正しい位置にあるにもかかわらずエンジンが始動しない場合は、次の「シフトポジションセンサーの故障」の可能性を疑う必要があります。

4. シフトポジションセンサーの故障

原因

シフトレバーの位置は、シフトポジションセンサー(インヒビタースイッチとも呼ばれます)によって検出されています。このセンサーが故障すると、シフトレバーの位置を正しく検知できず、レバーがPやN位置にあってもそれを認識できません。その結果、安全機構が働いてスターターモーターが作動しなくなります。

診断方法

シフトレバーが正しい位置(PまたはN)にあるにもかかわらず、エンジンが始動しない場合は、シフトポジションセンサーの故障が疑われます。正確な診断には、専用の診断ツール(スキャンツール)を車両のOBDⅡポートに接続し、シフトポジションセンサーの出力信号を確認する必要があります。

修理・改善方法

シフトポジションセンサーの故障が確認された場合、センサーの交換が必要です。この作業には、トランスミッション周りの分解が必要となる場合があるため、専門の知識を持つ整備工場での修理をお勧めします。センサー交換後は、車両の電子制御ユニット(ECU)の再学習が必要になる場合もあります。

5. キースイッチ(スタートボタン)の故障

原因

キースイッチの接点の劣化や断線、あるいはプッシュスタート式車両のスタートボタンの故障によって、スターターモーターに始動信号が伝わらなくなる可能性があります。

診断方法

キースイッチやスタートボタンの導通確認を行います。この作業には電気回路の知識とテスターの使用が必要です。また、キースイッチやスタートボタンを押した際の車両の反応(メーター類の点灯など)も重要な判断材料となります。

修理・改善方法

キースイッチまたはスタートボタンの故障が確認された場合、該当する部品の交換が必要です。特にキーレスエントリーシステムを搭載した車両の場合、スタートボタンの交換後に車両の電子制御ユニット(ECU)との再設定(コーディング)が必要になることがあります。

6. スマートキーの故障

原因

キーレスエントリーシステムを搭載した車両では、スマートキーの電池切れや故障によって、車両がキーの存在を認識できなくなり、エンジン始動ができなくなる可能性があります。

診断方法

スペアのスマートキーで解錠や始動が可能な場合、問題のあるキーの電池切れや故障が考えられます。また、多くの車両では、スマートキーの電池が切れかけている場合に警告メッセージを表示する機能があります。

修理・改善方法

電池切れの場合は、スマートキーの電池交換で解決します。多くの車種では、電池が完全に切れた場合でも、スマートキーを車内の特定の場所(例:スタートボタン付近)にかざすことでエンジン始動が可能になる緊急機能が搭載されていますので、取扱説明書を確認してください。

キー本体の故障の場合は、新しいスマートキーへの交換が必要です。ただし、新しいキーを車両に登録するマッチング作業が必要になるため、ディーラーや専門の知識を持つ整備工場での作業が必要です。

7. ブレーキスイッチの故障

原因

オートマチックトランスミッション車では、エンジン始動の条件として、シフトレバーが「P」または「N」位置にあることに加え、ブレーキペダルを踏み込んだ状態であることが必要です。ブレーキスイッチが故障すると、ブレーキペダルを踏み込んでもその状態を検知できず、スターターモーターが作動しなくなります。

診断方法

ブレーキペダルを踏み込んだ際に、ブレーキランプが点灯するかどうかを確認します。ブレーキランプが点灯しない場合、ブレーキスイッチの故障が疑われます。

修理・改善方法

ブレーキスイッチの故障が確認された場合、スイッチの交換が必要です。ブレーキスイッチは比較的簡単に交換できる部品ですが、取り付け位置の調整が重要です。調整が不適切だと、ブレーキランプの点灯タイミングがずれたり、クルーズコントロールなどの関連機能に影響を及ぼす可能性があります。